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『私の男』桜庭一樹 [文藝春秋]

直木賞受賞作。この作者の作品の中では、確かに、ライトノベルからは一番遠いだろう。だから、直木賞を受賞出来たのだと思うが、好みで言えば、『赤朽葉家』や『青年のための読書クラブ』の方が上である。ただ、作品の出来という点では、コンパクトにまとまっているし、良いことは確かである。直木賞との関係で言えば、文藝春秋が自社作品で獲るための戦略作という位置付けになろう。この作者の作品は、大体において、閉鎖的な田舎から、脱出する話と、しない話の二系統あるのだが、これは、脱出する話である。面白いのは、脱出というのが、閉鎖的な田舎からの脱出と、父と娘の色々な意味で煮詰まりすぎた関係からの脱出の二つが重ね合わされている所だろう。もう一つは、章ごとに時代を遡って、記述しているのだが、時間性を意識しているという点では、『ブルースカイ』に通じる物がある。

直木賞などを獲ってしまうと、ライトノベル的な関心からは、ライトノベルはやめてしまうのではないかというのが、一つのポイントであるが、どうなのだろう。ちなみに村山由佳は、未だに一応、ライトノベルも出し続けているので、それほど、心配することはないと思うが。


タグ:桜庭一樹
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『インシテミル』米澤穂信 [文藝春秋]

高額の時給に釣られて、密室の殺人ゲームに参加することになった人たちの話。単なる殺人ゲームではなく、ミステリー的に構成はされている。色々と、有名なミステリー作品のネタが出てきたりして、本格ミステリーマニア向けではあるが、必ずしも、そうでなくても、十分に楽しめるようになっている。というのは、見方を変えれば、ライトノベルでも、『扉の外』のようなゲームをさせられる話はあるわけで、むしろ、そういったコンテキストに近いとも言えよう。とはいえ、形式上は、ミステリー的な文脈に全面的に沿っているが、この手の殺人ゲームにありがちな読後感の悪さは意外と無く、あっさりしているのが特徴だろう。これは、この作者の作品が、大体、苦くはあるが、そう読後感が悪いわけでないので、この作者が書くとそうなってしまうのであろう。もっとも、参加者の背景や動機的な面は、結局、ほとんど最後まで明かされることがないからでもあろう。この作者の作品としては、『ボトルネック』と同様にメタな話として考えるべきであろう。というのは、結局、この殺人ゲームの設計がどうかという点に話の焦点の一つが行き着いてしまうからである。

ミステリーのランキングでは、トップ10に入ったりもしているが、『遠回りする雛』の方が出来は良いのではないかと思うが、シリーズで短編集というところで損をしたか。


タグ:米澤穂信
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