『吸血鬼と精神分析』笠井潔 [光文社]
間に一冊日本編の『青銅の悲劇』を挟んでいるが、これは『オイディプス症候群』の次の話で、時間的にもすぐ後に設定されている。今回は、タイトル通り精神分析がテーマだが、思想家としてネタになっているのはラカンとクリステヴァである。ただ、単にネタになっていると言うだけではなく、主人公の一人のナディア自身がPTSDになり、医者に通うところから話が始まっている。今回も、思想と事件が結び付いているが、相変わらず、思想の使い方がある意味では酷い。『青銅の悲劇』は日本編だったが、あちらは一種の館物で、ちまちまとアリバイの検証をしていたが、こちらは連続殺人犯が相手なので、パリを舞台に結構、動きが大きい。犯人はある程度は予想は付くが、それなりに意外性もあり、ネタも思想や精神分析と上手く関係させているが、時代設定を考えると、多少、反則な気もする。『青銅の悲劇』ほど冗長ではなく、分厚いが読みやすかった。次作も早く、まとめて貰えると良いのだが。
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